労務

不当労働行為とは?禁止される5つの行為と罰則について

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

労働者には、団結権、団体交渉権、団体行動権という権利が憲法28条によって保障されています。

これに伴い、労働組合法は、これらの権利の保障を実現するため、不当労働行為救済制度というものを定めています。

使用者が不当労働行為にあたるとして禁止されている行為をしてしまった場合、労働委員会へ救済申立てがなされるおそれがあります。さらに、救済命令に従わなかった場合にはペナルティを受ける可能性もあります。

そこで、今回の記事では、不当労働行為とは何か、不当労働行為として禁止される行為にはどのようなものがあるのか、不当労働行為をしてしまった場合の罰則等について解説します。

不当労働行為とは?

不当労働行為とは、団結権、団体交渉権、団体行動権の適正な行使を妨げることを理由に類型化され禁止された行為をいいます。

労働組合法は、不当労働行為を禁止し、それを行った使用者に対し罰則を設け、労働者が使用者と闘うための行動が阻害されないようにすることで、労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しているのです。

なお、団結権、団体交渉権、団体行動権がどのようなものかというと以下の通りです。

  • 団結権:労働者が労働条件の維持・改善を図るために労働組合を結成し、運営する権利
  • 団体交渉権:労働者が使用者と団体交渉を行うことを保障する権利
  • 団体行動権:一定範囲でのストライキなどの争議行為を行うことを保障する権利

不当労働行為として禁止される5つの行為

不当労働行為に当たる行為は労働組合法7条に類型化されて定められています。

具体的には、①不利益取扱い、②黄犬契約、③団体交渉拒否、④支配介入及び経費援助、⑤報復的不利益取扱いの5つです。

①不利益取扱い

不利益取扱いとは、労働者が労働組合に加入したこと、又は労働組合を結成したこと、もしくは、労働組合の正当な活動をしたことを理由に、解雇や退職願いの提出の強要、休職などの労働者にとって不利益な取扱いをすることをいいます。

不利益取扱いに該当する具体例

例えば、ある従業員がストライキ等に参加したことに対して、その従業員を懲戒解雇とした場合は、労働組合の正当な活動をしたことに対して不利益な処分をしたものとして、不利益取扱いであり、不当労働行為にあたるとされます。

②黄犬契約

黄犬契約は、労働契約において、労働者に労働組合に加入しないこと等を約束させ、労働者の団結権等の行使を妨げるものです。なお、「黄犬」とは英語の「yellow-dog(=卑劣な者)」という言葉に由来しています。

黄犬契約に該当する具体例

具体的には、労働者が労働組合に加入せず、もしくは労働組合から脱退することを雇用条件として、それを約定させることをいいます。また、組合に加入しても、積極的な活動はしないとする約定も黄犬契約に該当するとされます。

③団体交渉拒否

使用者が、雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことは、団体交渉拒否として不当労働行為になります。なお、「拒む」とは誠実に交渉しないという意味も含みます。

団体交渉拒否に該当する具体例

例えば、団体交渉に応じること自体を拒否することのみならず、団体交渉をするために必要な資料の提示を拒んだり、正当な理由がないのに労働協約の締結(団体交渉における合意を書面化すること)を拒んだりすることが、団体交渉拒否にあたります。

団交拒否が認められる「正当な理由」とは?

団体交渉拒否にあたりうる行為をした場合であっても、合理的な理由に基づいてなされた行為であれば、正当な理由があるものとして不当労働行為にはあたらないと判断されます。

例えば、使用者が団体交渉を開催するにあたり、団体交渉の労働組合側の出席者を5名に限るという条件を設けたとします。この条件を設けた理由が、団体交渉を行うことができる場所に限りがあり、その部屋に入ることのできる人数が限られていた等という合理的な理由がある場合には、正当な理由があるといえます。

また、使用者が団体交渉の打切りをし、団体交渉を拒んだ場合でも、労働者と使用者の双方が誠実に団体交渉を重ねたにもかかわらず、双方の主張が対立し、それ以上に譲歩の余地がないという状況になったために、使用者が団体交渉を打ち切ったということであれば、正当な理由があるとして不当労働行為にはあたらないと判断されます。

④支配介入及び経費援助

支配介入とは、使用者が、労働者の労働組合結成やその運営を支配もしくはそれに介入することをいいます。そして、経費援助とは、使用者が労働組合の運営経費の支払いについて経理上の援助を与えることをいいます。

これらは、労働組合の自主性や独立性を失わせることにつながるため、不当労働行為にあたるとされています。

支配介入に該当する具体例

例えば、社長が「組合から脱退しなければ人員整理もありうる」と発言したことを支配介入にあたるとされた判例があります。

また、その行為をした者が代表取締役社長ではなくとも、その行為が代表取締役等の役員との具体的な意思連絡に基づいてなされたものである場合には、支配介入であるとされるおそれもあります。

経費援助に該当する具体例

経費援助は労働組合の運営のために必要な経費や、活動資金を使用者が援助することをいいます。
そのため、以下の行為は経費援助には当たらないとされます。

  • 就業時間中の団体交渉に対する賃金の支払い
  • 組合の福利厚生基金に対する寄付

しかし、これらの金銭の供与等を一方的にやめた場合、その理由に合理的な理由がなければ、やめたこと自体が不当労働行為と判断されるおそれがあることに注意が必要です。

⑤報復的不利益取扱い

報復的不利益取扱いは、労働者が労働委員会等への救済申立てをしたことなどを理由に、解雇や減給等の不利益な取扱いをすることをいいます。

報復的不利益取扱いに該当する具体例

例えば、労働委員会に不当労働行為救済の申立てをしたことで、使用者が労働者を解雇とした場合や不当労働行為の命令について再審査申立てをしたことで、使用者が労働者にパワハラを行って精神的な不利益を与えた場合などがあります。

不当労働行為を行った場合の罰則は?

不当労働行為を行ってしまった場合、使用者は、①民事上の損害賠償責任、②救済命令違反に対する罰則を受けるというリスクがあります。

労働委員会からの救済命令

不当労働行為をされた労働者や労働組合は、都道府県労働委員会に救済申立てをすることができます。

申立てを受けた都道府県労働委員会は、調査、審問を行い、公益委員による合議を経て、不当労働行為があったと認めた場合には、行政処分として救済命令が発せられます。

救済命令の内容は事案に応じて変わるため、多種多様ですが、例えば不利益取扱いで解雇がされた場合には、原職復帰命令や解雇期間中の賃金相当額の支払命令がされることがあります。

救済命令違反に対する罰則

救済命令は行政処分であるため、救済命令に不服がある場合には、再審査の申立て又は、取消訴訟の提起が可能です。これらの手続きを行わなかった場合又は、これらの手続きに敗訴した場合には、救済命令が確定します。

そして、使用者が、確定した救済命令に違反した場合には、以下のとおり罰則が科されるおそれがあります。

  • 取消訴訟無しで救済命令に違反した場合:50万円以下の過料
  • 取消訴訟を経て確定した救済命令に違反した場合:1年以下の禁固刑もしくは100万円以下の罰金

損害賠償・慰謝料請求

不当労働行為は、民法上の不法行為にあたるため、不当労働行為によって労働者や労働組合が損害を被った場合、不法行為に基づく損害賠償請求がなされるおそれがあります。

例えば、不当労働行為である不利益取扱いとして、解雇をした場合には解雇時以降、働いていれば得られたはずの給与相当額が損害にあたるため、賠償金は多額になるおそれがあります。

不当労働行為で刑事罰は科されるか?

不当労働行為自体が刑法に違反する行為ではない限り、刑事罰が科されることはありませんが、前述のように、取消訴訟を経て確定した救済命令に違反した場合には、1年以下の禁固刑もしくは100万円以下の罰金に処されるおそれがあります。

不当労働行為とならないために企業がとるべき対策

労働組合の活動を阻害する行為は不当労働行為にあたってしまう可能性があります。もっとも、不当労働行為とされる行為は多岐にわたるのみならず、法律上、不当労働行為であるとされるために必要な条件も複雑になります。

少しでも不当労働行為なのではないかと迷った際には、実際に行為を行う前に弁護士に相談することがよいでしょう。

弁護士法人ALG&Associatesでは、企業労務を得意とする弁護士が多く在籍していますので、ぜひご相談ください。

不当労働行為について争われた裁判例

最後に不当労働行為について争われた実際の裁判例についてご紹介します。

事件の概要

A社は、労働組合Bがその組合活動のために従業員食堂を使用することを業務に支障のない限り、許可していましたが、守衛が組合の学習会参加者氏名を記録したことに端を発する労使の対立から、A社は、Bに会社施設の使用を一切認めないとの通告を行いました。

Bは、使用許可願を使用届と変更して提出し、食堂の使用を続けた一方、A社は組合員の退去を求め、食堂の出入り口に扉をつけて施錠したことで、この食堂の使用を禁止したA社の行為が支配介入にあたるかが問題になりました。

裁判所の判断

「使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業施設の利用を受任しなければならない義務を負うと解すべき理由はない。そして、労働組合又は、その組合員が使用者の許諾を得ないで企業施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該企業施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該企業施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動にあたらない。」

「組合は、A社所定の会場使用許可願用紙を勝手に書き変えた使用届を提出するだけで、A社の許可なく食堂を使用するようになり、こうした無許可使用をA社が食堂に施錠するようになるまで5箇月近く続けていたのであって、これがA社の施設管理権を無視するものであり、正当な組合活動にあたらないことはいうまでもない。」とした上で、「A社の権利濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえず、組合の弱体化を図ろうとしたものであるとも断じ得ないから、A社の食堂使用の拒否が不当労働行為にあたるということはできない。」としました(最二小判平成7・9・8労判679号11頁)。

ポイントと解説

この判例が出される以前は、憲法28条は、組合活動をも保証しており、従業員が主体となっている労働組合は企業内で活動することに意味があると考えられていたことから、正当な組合活動であれば、使用者は企業内での活動を甘んじて受け入れるべき場合があるとの考えが有力でした。

しかし、本判例は、使用者が施設利用を許諾しないことが権利濫用と認められる特段の事情のない限り、組合が施設を利用することを拒否したとしても不当労働行為にはあたらないとしました。

したがって、労働組合の組合活動と使用者の施設管理権では、施設管理権の方が優位に立つと言えます。

もっとも、使用者が労働組合の邪魔をするだけの目的で施設管理権を行使した場合には、施設管理権の濫用とみられるおそれはあることに注意が必要です。

不当労働行為で労使トラブルとならないために弁護士がアドバイスいたします。

前述のように、不当労働行為とされるおそれのかる行為の態様は非常に多種多様です。

そして、不当労働行為救済制度は、憲法上保障された労働者の団結権等を保障するためのものであるため、不当労働行為と言えるか否かは厳しく判断されるのみならず、不当労働行為とされる行為をしてしまった場合には、損害賠償請求をされるリスクや救済命令をくだされるリスクがあり、使用者にとっては厳しい制度であるといえます。

不当労働行為であるとの指摘を受けないためには、行為をする前に不当労働行為であるか否かを判断した上、その行為をすべきかどうかを判断する必要がありますが、不当労働行為にあたるか否かの判断は難しい部分が多々あります。

そこで、不当労働行為などについて悩んだ場合には、企業労務の専門家が多く所属する弁護士法人ALG&Associatesへご相談ください。共に問題にならないかどうか、どうすれば不当労働行為と判断されることを回避しつつ、適切な対応をとることができるかなど、アドバイスをさせていただきます。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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